乾杯!

お酒を飲むときの「乾杯!」、当たり前のようにやっていますが、なぜいつもやっているのでしょうか?
実はその由来にはいくつかの面白い説があります。また、世界中で行われていますが、
やり方や意味合いは国によって少しずつ異なります。

なぜ乾杯をするの?(主な由来)
乾杯の起源には、主に「宗教的儀式」「魔除け」「毒見」の3つの説があるようです。

・神様への献酒(宗教的説): 古代ギリシャやローマでは、神や死者に敬意を表してお酒を捧げる儀式がありました。自分たちが飲む前に、神様に捧げる動作が現代の乾杯に繋がったと言われています。

・悪魔を追い払う(魔除け説): 中世ヨーロッパでは、お酒には悪魔が宿ると信じられていました。グラスを「カチン!」と鳴らす音で悪魔を驚かせて追い払おうとしたのが、グラスを合わせる習慣の始まりという説です。

・毒が入っていないことの証明(毒見説): 昔、敵対する相手を毒殺することが珍しくなかった時代、互いの杯を強くぶつけて中身を混ぜ合わせ、「毒が入っていない(入っていたら自分も死ぬ)」ことを証明したという、少し物騒な由来もあります。

日本の「乾杯」はいつから?

日本で現在のような「乾杯」が広まったのは意外と新しく、幕末から明治時代にかけてと言われています。
きっかけとして1854年にイギリスの使節が訪れた際、当時の役人が西洋の「トースト(Toast/乾杯)」の習慣を真似て行ったのが最初という説があります。この言葉の意味は、漢字で「杯を乾かす」と書く通り、もともとは「一気に飲み干す」という意味でした。(英語で乾杯を「トースト(Toast)」と呼ぶのは、昔のワインの質が低かったため、焼いたパン(トースト)の一片を入れて風味を良くしていたことに由来します。)

それではそれ以前は何もしなかったのか?というと、決してそんなことはありません。ただ、今のような「全員でタイミングを合わせ、声を揃えて杯を合わせる」という形式ではなかった、というのが正確なところです。

幕末以前の日本のスタイル:献杯と返杯
今の乾杯は「横のつながり(全員一緒)」ですが、昔の日本は「縦・対面(1対1)」のやり取りが主流でした。

一つの杯を使い回す: 当時は一人一つのグラスではなく、一つの杯を座の全員で回して飲む「回し飲み(順杯)」が
一般的でした。同じ杯で飲むことは「仲間(家族)になる」という強い連帯感の象徴でした。

献杯(相手に捧げる): 主人が客人に「どうぞ」と杯を差し出し、お酒を注ぎます。

返杯(お返しする): 客人は飲み干した杯を軽く拭き、それを主人に返して、お酒を注ぎ返します。

この「注いで、飲んで、返して、注ぐ」という1対1のやり取りが、当時の「乾杯」にあたる儀式でした。

なぜ「一斉に」はやならなかったのか?
そこには日本独特の宴会マナーが関係しています。

身分制度: 江戸時代までは身分がはっきりしていたため、身分の高い人と低い人が同時に杯を上げて飲むことは失礼にあたると考えられていました。

儀式の厳格さ: 格式高い席では、飲む順番や作法が細かく決まっており、「みんなで楽しくイエーイ!」という
空気ではなかったのです。

ちなみに:庶民はどうしてた?
武士や貴族が堅苦しい儀式をしていた一方で、江戸の庶民たちはもっと自由に飲んでいました。

「さあさあ、飲んで飲んで!」

「お流れ頂戴いたします」

といった掛け声で、相手と杯を酌み交わしていました。今の「乾杯」ほどシステマチックではありませんが、
「相手に敬意を表してお酒を勧める」という本質は、昔も今も変わっていないと言えます。

昔の「一つの杯をみんなで回し飲む」という文化は、今の衛生観念からすると驚きですが、実は今の結婚式の
「三三九度」などにその名残が残っています。時代とともに形を変えてきた「乾杯」の文化。

一つの杯を回し飲んだ時代から、一斉にグラスを鳴らす現代へ。形式は変わっても、お互いを敬い、同じ時間を共有する喜びは、これからも日本の宴の真ん中にあり続けることでしょう。
「あなたの好きな乾杯の瞬間は?」

それでは、今夜も素敵な「乾杯」を!